研究の初年度においては、モンゴル系のイスラーム教徒であるトンシャン(東郷)族とポーナン(保安)族の実態について調べた。今年度の冒頭はSARSの影響を受けた。そのため、現地調査は冬の12月から翌1月にかけてようやく実施することができた。 まず、北京から空路で甘粛省の首府である蘭州市に入り、ここで甘粛省社会科学院、西北民族学院大学、蘭州大学等に所属する現地の研究者たちと研究情報を交換し、文献収集も行った。つづいて蘭州市西部に位置する臨夏回族自治州に赴き、トンシャン(東郷)族とポーナン(保安)族の人々にインタビューをし、彼らの宗教施設を観察し、その歴史とイスラーム信仰の実態に関する情報を入手した。 トンシャン(東郷)族とポーナン(保安)族が居住する臨夏回族自治州は長いあいだ対外未開放地域とされてきたため、外国人研究者には未知の世界であった。そのため、この地のイスラーム社会についても1910年頃に欧米の宣教師たちが書いた報告書以外はほとんど情報がなかった。私は現在、今度の調査で収集した情報を2004年春に開催される日本文化人類学会(於 東京外国語大学)にて発表する予定である。なお、次年度においてはトンシャン(東郷)族・ポーナン(保安)族と隣人の撒拉(サラール)族や回族(いずれもイスラーム教徒)との関係について調査する予定である。
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