ロシア現代社会の住民自治の現状について、モスクワ市ザモスクヴォレツキー地区を中心に実証研究を行った。この地区で発生している事例を三件取り上げ、それぞれについて調査した。 (1)同地区シポフスキー横丁第11/13号棟では、アパート建て替え計画があり、それに賛成する住人と反対する住人の間で対立が深まっている。この対立が原因で、暖房パイプが切断され、この4年間というものは住人たちは暖房のない冬季を過ごしている。このアパートには、住人組合が結成されていたが、いまでは機能しておらず、住民自治の限界と問題点を提起している。 (2)同地区オゼルコーフスカヤ通りの第2/1号棟では、隣接する土地に28階建てのビジネスセンターが建設されることになった。さらに、この建物の反対側には、高層の銀行の建物が建設されることになり、住人たちは建設工事の振動によってアパートが傷むことを心配している。この建設計画がきっかけとなり、住人組合を結成し、建設工事に反対する住民運動を展開している。 (3)同地区モネトチコフスキー横丁第9号棟では、住人たちが隣接するチョコレート工場に出入りするトラックに危険を感じ、工場の移設を訴えている。この工場は連邦政府が経営する大きな工場であり、住人たちは連邦政府を相手に交渉している。 このような住民運動は住人にとって、必ずしもよい結果を生んでいるわけではなく、住人たちの何人かはロシア大統領に問題解決のために直訴している。プーチン大統領は2004年3月の大統領選挙では7割を超える支持率を獲得して圧勝したが、その背景には現実の日常生活で解決できない問題を抱え込む住民たちからの支持があったことがわかる。
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