研究概要 |
遺伝資源へのABSシステム構築に積極的な南アジアのうちのネパールとスリランカを対象に、現地調査を行った。ネパールでは森林土壌保全省、IUCN(International Union for Conservation of Nature),ICIMOD(International Centre for Integrated Mountain Development)等を中心に、また、スリランカでは環境・天然資源省、Institute of Indigenous Medicine、コロンボ大学等を中心に、各々の生物・遺伝資源の保全、利用、利益配分に関わる政策、実態を聞取り調査した。両国とも、1992年のCBD(生物多様性条約)、さらに、南アジアで1997年に開催された第3回SAARC(南アジア地域協力連合)環境大臣会議を契機として、生物多様性の保全と持続可能な利用、利益配分による地域社会への環境保全インセンティブ創出を意識したアクションプランの起草、生物資源のデータベース化等の取り組みを開始していた。 しかしながら、両国ともに、遺伝資源マネジメントの実態としては、まだデータベース化に代表されるようなインフラ作りの段階にあり、その利用からの利益配分メカニズムの構築自体にはまだかなり時間を要する点、大きな課題を抱えている。特に、アユールベーダ大学やアユールベーダ省(共に既に別組織に編成)を抱え、薬草等の伝統的知識の体系的管理にまで乗り出しているはずのスリランカにあって、利益配分メカニズムとの連動が脆弱な点は意外な状況であった。次年度においては遺伝・生物資源の利用と利益配分とのリンケージをより重視していると思われるインドの調査を行うが、インドと両国の対比は、遺伝資源マネジメントの構築にあたっては具体的にどのような政策立案、イニシャティブが必要なのかを示すものとなるのかもしれない。
|