研究課題
基盤研究(B)
本研究においては、中南米及び南アジアにおける遺伝資源・伝統的知識へのアクセス及び利益配分(ABS)システムをめぐる政策及び実態の調査、そして、遺伝資源を最も利用していると考える米国の国立研究機関の調査を行った。その調査の結果、中南米、南アジア諸国については、各国の遺伝資源の潜在力、その遺伝資源に係わる部族構成、遺伝資源の利用に係わる知識の認知程度により、ABSに対する各国の対応は多様ながら、大きく分けて3つに分類できると考えている。第一のタイプは、自国の遺伝資源を付加価値ある素材として位置づけて、遺伝資源の移転を積極的に行い、利益配分を受けていこうとする流れである。特に技術開発力が大きいとはいえない途上国で見られる傾向である。この典型的なものとしては、中米のコスタリカである。第二のタイプは、自国の遺伝資源の外国企業の利用を必ずしも積極的に推進しないで、自国企業の研究開発にこそそれらを活用していこうとするモデルである。このタイプの傾向は、これまでの先進国企業による自国資源及びそれを利用する伝統的知識の無断利用をいかに阻止するかということ、アクセスの規制に重点を置いている。インドやブラジル等、医薬品開発能力を有している国が属するタイプである。第三のタイプは、ABSについて、政策を整備し始めているとは言い難いタイプ、あるいは政策を策定中の諸国群である。しかし、このタイプは、政治、経済的諸問題もあって、第一にも、第二のタイプにも迅速に進みきることができない諸国群である。米国NIH(国立衛生研究所)の調査からは、米国は、生物多様性条約には批准はしていないものの、生物多様性条約の定めに即して、PIC(事前の情報の基づく同意)を取得し、利益配分、技術移転、知的財産の取扱いも、契約により、当該国の求める条件に即して実行してきたとの情報を取得した。但し、その契約相手国がこの第三タイプの諸国である場合、技術力、情報力ともに、優劣があるのは否めず、どの程度のレベルでの合意であるのかは、より細かなフォローアップによる分析が必要となるだろうと思われる。
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