1.本年度は、主としてベルリン、北ドイツ(ハンブルク)、および旧東ドイツの劇場(ワイマール)の劇場を訪問し、公演システムの特質等の調査研究をする予定であったが、北ドイツを南西ドイツ(フライブルク)に変更し、ベルリン、フライブルク、ワイマール、さらにはウィーンの劇場における演劇状況についての調査を行った。 2.現代ドイツの演劇(および場合によってはオペラ)においては、各々の劇場における芸術監督(インテンダント)の権限が強く、芸術監督の交代とともに、基本的には、ほぼ全員の俳優と文芸部員もいっしょに交代するのが通例である。したがって、各都市における劇場にあっては、基本的に「劇団」は芸術監督の交代によって解体され、かつ再編成されることになる。 3.昨年度のシーズンにおけるドイツの演劇状況については、雑誌『葦牙』(同時代社)31号(2005年7月、発行)に、「去勢されたドン・ジョヴァンニ--現代ドイツの演劇状況IV--」の表題で論文を発表する。本年度については、来年度早々に、論文を執筆する予定である。 4.ドイツにおける近代的劇場の成立史、すなわち、「宮廷劇場から市民劇場へ」の歴史的移行の特質の研究は、本年度は十分に展開することができず、来年度の課題となるが、理論的には、ヘーゲルの『美学講義』が、そのさいの主要な対象の一つとなる。 5.「劇場への公的助成」の問題については、歴史的には由緒ある文化都市であるとはいえ、わずか人口6万ほどのワイマールの劇場について調査を行うことで、「芸術の存在形態」という点におけるドイツと日本との相違を、本質的な問題として設定することの必要性が明らかとなった。
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