ドイツ語圏の各地の劇場におけるフィールドワークを通じて得た知見の内容は、おおよそ以下の通りである。 1.ドイツの劇場の公演システムは、相対的に規模の大きい場合には「レパートリー制」、規模の小さい場合には、日本の劇団で一般的な「エンスウィート制」を取る。 2.レパートリーは、劇団の規模によって異なるが、1シーズン、ほぼ30本程度の作品が上演され、年間の上演は、複数の舞台を用いて500回程度というのが一般的である。 3.ある制作がレパートリーに含まれる期間は、だいたい2年程度であるが、芸術的もしくは興行上の評価の高低によって左右されることが多い。 4.人口が5万以上の町ならば、「国立(州立)劇場」「市立劇場」「有限会社」等、経営形態はさまざまであるが、自前の芸術家を擁する劇場が存在するのが一般的であり、それに対する行政からの助成は手厚く、劇団の総支出の80%から90%ほどは、助成金によって補填されている。 5.俳優やドラマトゥルク(文芸部員)の契約任期は、基本的に2年間で、管理・事務部門がほぼ公務員として異動がないのとは異なり、芸術監督の交代とともに大幅に入れ替わるのが普通である。 6.古代ギリシャから現代にいたる諸作品に対する演出の一般的な傾向を総括することは困難であるが、演出家主導による作品の大幅な改編・改作が行なわれるのは、ごく一般的である。 7.俳優および文芸部員の養成は、日本とは異なり、州立の高等教育機関によって行なわれる。 ドイツ語圏における現在のような劇場制度の歴史的形成過程についての研究は、これからの課題である。
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