本年度は海外調査研究の初年度であり、フィンランドでの海外調査とともに、このプロジェクトに関連する主要理論や概念についての分析を行うことに主眼を置いて研究を遂行した。5月から7月にかけて、研究代表者・高橋は、海外研究協力者との打ち合わせに先立ち、研究分担者Mervioとともに、「緑の福祉国家」モデルの理論的課題を整理した。この研究テーマには、福祉レジーム論だけでなく、開発、環境(エコロジー)、福祉といった人間の安全保障にも通じる研究課題が含まれるが、人間中心主義を超えたディープ・エコロジーともパラダイムを共有する立場で、いかにして福祉国家の持続性を追求するかが問われる。8月にはフィンランドのタンペレ大学社会政策学科でSipila教授との研究打ち合わせを中心とする海外調査を実施した。この打ち合わせにおいて、本研究が提唱する「緑の福祉国家」モデルについての意見交換だけでなく、日本とフィンランドの家族政策の現況を中心に福祉国家制度の比較研究のための理論的な枠組みとについても討論した。今年度のフィンランドでの海外調査研究の成果として、タンペレ大学やフィンランド社会保健省を中心とする海外調査を通じて、北欧型福祉国家の現在の課題についても最新の資料や情報を得ることができた点が挙げられる。さらに、9月以降には、緑の福祉モデルについての最新の理論研究の展開に注目しつつ、主としてTony Fitzpatrickらの理論(環境と福祉、エコ・ウエルフェア)の展開について整理するとともに、近年のフィンランドやスウェーデンにおける福祉モデルに関する議論との関連付けを試みた。これと並行して、国内でEUの環境・社会政策に関する資料収集を行なった。また、平成16年1月から3月にかけては、平成16年度に予定している北欧諸国での海外調査の準備のために、関係分野の大学関係者らへの連絡を行なった。
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