本研究の目的は、「日本では対応バイアスはアメリカよりも小さい」という説の妥当性を検証するために、対応バイアスの強度が日米間で異なるかどうかを調べることであった。対応バイアスを測定するための質問紙実験を日米両国で実施した。 質問紙は、ある政治的声明が作成されたときの状況を記してから、その声明を記し、声明を作成した人物の真の見解を被験者に推定させるというものであった。1488名の日本人回答者を用いた予備実験によって、状況とその拘束力、および対応バイアスの強さが異なる8種類の質問紙を作成した。1157名のアメリカ人回答者と712名の日本人回答者がこれらの質問紙に回答した。 上記の説は、「欧米文化」と「日本文化」を対比したものである。従って、アメリカ人回答者のうち、分析に使用することができるのは、ヨーロッパ系の回答者のみとなる。今回実験をおこなったサンフランシスコ州立大学はアジア系をはじめとする非ヨーロッパ系の学生が多く、1157名の回答者のうち、ヨーロッパ系は僅か291名に過ぎなかった。1条件あたりの回答者は平均して約18名という少数で、統計的分析をおこなっても明確な結論を得ることはできない。今後も実験を続行する必要がある。 暫定的なものではあるが、今回得られた結果は次のようなものであった。状況1(ヒンズーとイスラムの宗教対立)では、アメリカ人回答者の方が一貫して強い対応バイアスを示した。一方、状況2(コソボの民族対立)では、そのような傾向は見られなかった。質問紙に登場する人物が作成した(という触れ込みの)声明の内容自体は、固有名詞が入れ替わっている(例:「ヒンズー教徒」⇒「セルビア人」)ほかは、全く同じものであった。従って、暫定的な結論ではあるが、対応バイアスの強度には、文化差よりも状況の差の方が大きく影響するのではないかと推定される。
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