本研究では、可搬型18cmサブミリ波望遠鏡をチリ共和国のアタカマ砂漠の高地(標高4800m)に持ち込み、中性炭素原子のサブミリ波輝線(492GHz)の銀河面広域観測を行う。その結果を一酸化炭素分子輝線の分布と比較することにより、銀河系スケールでの分子雲形成を探求することを目的としている。 今年度は、本研究により取得された中性炭素原子の銀河面サーベイのデータ、および、代表的星形成領域M17における観測データの解析を進めた。また、チリにおいてこれまでの観測データを補強するための観測を行った。銀河面サーベイの結果については、岡が中心となって論文としてまとめあげた。銀河系の渦状腕に落ち込む直前のガスにおいて、中世炭素原子の存在量が高まっていることを示すことができ、銀河系における分子雲形成の一端を捉えることに成功した。これについては、4月に記者発表も行い、何件かの全国紙に掲載された。一方、18cm可搬型サブミリ波望遠鏡の観測によってM17領域で見出された中性炭素原子の幅広いスペクトル線の起源についての研究も同時に進めた。富士山頂サブミリ波望遠鏡による観測データ(中性炭素原子、CO J=3-2)、名古屋大学が有する「なんてん」の観測データ(CO J=1-0)、および国立天文台野辺山観測所の45m電波望遠鏡の観測データ(CO J=1-0)を総合的に解析した。その結果、線幅の広い成分はM17分子雲に付随するように数10pcにわたって広がっていること、密度、温度がいずれも低く希薄な星間雲に性質が似ていること、重力的に束縛されないクランプ構造を内包していることなどが明らかになった。これらの事実は、線幅の広い成分がこの領域に存在するといわれるスーパーシェルによって掃き集められて形成したものであることを示唆している。したがって、スーパーシェルによる分子雲形成を考える上で重要な知見と言える。
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