本研究では、可搬型18cmサブミリ波望遠鏡を南米チリのアタカマ砂漠の高地(標高4800m)で運用し、中性炭素原子のサブミリ波輝線(492GHz)の銀河面広域観測を行った。銀緯が0度、銀経が290度から350度の範囲で1度おきに観測を行い、良質のスペクトルデータを取得した。その結果、中性炭素原子スペクトル線で、銀経-速度図を描くことができた。これをハーバード大学のグループが行っている一酸化炭素分子のデータと比較することにより、中性炭素原子が豊富な領域が、銀河系渦状腕の上流部分に存在していることを明らかにした。中性炭素原子は希薄な原子ガスから密度の高い分子ガスへの相変化の中間で豊富に存在すると考えられている。従って、本研究の結果は、銀河系渦状腕に落ち込むガスで星間分子雲が形成されていることを意味する。これは、銀河系スケールでの星間分子雲形成を捉えた重要な成果であり、様々な銀河のダイナミクス、進化を考える上で、中性炭素原子サブミリ波輝線の観測の意義が改めて示された。 本研究による観測において、上記の結果の外、銀河系内の代表的大質量星形成領域であるM17領域で空間的に拡がった速度幅の広い成分を中性炭素原子スペクトル線ではじめて検出した。同様の成分は、富士山頂サブミリ波望遠鏡による中性炭素原子の観測、名古屋大学「なんてん」や国立天文45m望遠鏡による一酸化炭素分子の観測においても確認され、それらの物理状態からM17付近に存在するスーパーシェルに起因している可能性が高いことがわかった。この結果は、スーパーシェルが星間分子雲形成を引き起こしていることを示す初めての証拠として、大きな意義をもつ。
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