昨年に引き続き、主にヒ素溶出要因解析、細胞表層工学によるヒ素除去および深層地下水取水時のヒ素輸送解析を試みた。 装置実験から、有機物としての下水汚泥の含有量の増加に伴い、ヒ素の溶出量が増える傾向が認められた。また、酸化還元電位が-80mV付近で最もヒ素が溶出することを再度確認できた。なお、2価鉄とヒ素溶出および炭酸水素イオン濃度とヒ素溶出の明確な関連性はみられなかった。一方、モデル解析にも必要な、水中から土中へのヒ素の吸着量と土中から水中へのヒ素の溶出量の平衡状態時における分配係数としてバングラデシュでの浅い帯水層とオーダー的に近似する値k_d=0.69×10^<-7>(m^3/mg)を得た。 細胞表層工学を適用した実験では、pTV118N+lamB-arsRプラスミドを作製し、70%以上のヒ素除去がみられたが、再度lamB、arsRが適正に挿入されているかを確認する課題が残った。 さらに、バングラディシュでは将来、ヒ素汚染の著しい30m付近の浅層地下水を避け、現時点でヒ素汚染の少ない深井戸が主な水源になると予想される。したがって、深度別の帯水層の取水に伴うヒ素輸送を、現地データを用いてモデル解析を試みた。浅い帯水層でのヒ素濃度は長い年月の間に徐徐に低下する傾向にあるが、深い帯水層では次第に高濃度になり、ヒ素の吸脱着反応が平衡になるまでの時間スケールを5年と推定した計算例では100年後には70mの帯水層までヒ素汚染が進むと見積もられた。
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