研究概要 |
昨年に続いて本年度の調査でタリムアカシカ保護区の計画を立案することとし,その目的を達成した. 現地調査は,新彊農業大学の畜産学の専門家を加えて実施した.シカの個体群管理方法については西興部村に新設した猟区管理協会において実験的に検討し,個体群解析と環境解析については北海道大学および酪農学園大学において実施した. 保護区の計画は2ヶ所の分布域の実情に応じて,次のような具体策としてまとめた. 1.タリム川流域個体群(約500頭):新彊林業庁が管理する胡楊林保護区域内に分布しているため,密猟の心配はない.安定した個体群として維持するための管理方法についてマニュアル化する.付近の都市コルラに自然史博物館を,保護区内には調査継続のためのフィールド・センターを設置することとし,主として新彊大学生物系が引き続き調査および指導を行うものとする. 2.チェルチェン川流域個体群(約50頭):われわれの説得によって,密猟や養鹿素鹿としての子鹿の捕獲はなくなった.しかし,生息地の胡楊林内ではヤギの放牧が行われ,過放牧によるタリムアカシカの収容力低下が懸念される.そこでアカシカ分布域を保護区とし,ヤギの放牧を禁止する.そのために次の計画を立案した.(1)保護区に隣接する荒れ地に草地造成をして,そこでヤギを放牧する.(2)現在の養鹿場は繁殖センターとして位置づけ,タリムアカシカを増やして野外に放す「再導入計画」を実施する.(3)年1万頭処理できるヤギの薫製工場を作る.(4)人工授精によりカシミアの生産の多いヤギの品種としていく.(5)保護区内に監視・調査のための施設を作るほか,近くの村(タテラン村)にエコツーリズムのための施設を作る.(6)それらを一元管理・運営するための組織を作り,われわれは引き続き協力する.
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