研究概要 |
今年度は,まず紫外色を有する翅を持つモンシロチョウ雌の,ユーラシア大陸における分布を知るために,イギリスの自然史博物館(ロンドン)とドイツのケーニッヒ博物館(ボン)に所蔵されているモンシロチョウの標本の調査と紫外線写真の撮影を行った.その詳細及び結果は:(1)調査および紫外線写真を撮影した雌は,ユーラシア大陸の24カ国,2地域,および3島から採集された,合計368頭である.そのうち紫外色を発現する条件である,長日条件下で幼虫期を経過した雌標本(5月15日〜8月15日に採集)は104頭であった. (2)この104頭についてユーラシア大陸各地域の雌翅の紫外色の有無を調べた結果:(1)ポルトガル,スペインから中東のイラク,イラン,およびアフガニスタン,インドなどの中央アジア,中国西部から採集された雌は紫外色を有しない. (2)アフリカのモロッコから採集された雌は紫外色を有しない. (3)カナリー諸島,マルタ島およびキプロス島で採集された雌は紫外色を有しない. (4)中国東部および韓国から採集された雌は,紫外色を有するものと有しないものとが認められた. (5)上記の採集期間以外に採集された標本のうち,中国東部と韓国以外の地域から採集された雌は紫外色を有していなかった.中国東部と韓国で採集された雌の一部は紫外色が認められた. 以上の結果よりユーラシア大陸の中で,紫外色を有する雌は,中国東部および韓国でのみ確認された. (3)イギリス,ドイツ,フランス,ウクライナおよび中国東部(長春,落陽,昆明),韓国,日本のモンシロチョウについて,ミトコンドリアDNAのND5の塩基配列を解析し,分子系統樹を作成した.その結果,中国東部,韓国,日本のモンシロチョウとそれ以外のユーラシア地域のモンシロチョウは,異なるグループに分かれることが分かった.これより紫外色はユーラシア大陸の東部で進化したと推測される.
|