研究概要 |
調査対象の寒・温・熱帯湖のうち本年度は寒帯のバイカル湖を対象に現地調査を行った。すわなち,その沿岸帯(水深1〜10m)の底生生物群集に関し,付着藻類等の生産者に依存した生食連鎖群と生物遺骸等に依存した腐食連鎖群の量的比較を,2005年7〜8月に5名の日本人研究者(うち3名は研究協力者)と数名のロシア陸水研究所の共同研究者からなるチームによりロシア陸水研究所バイカル湖実験所において行った。そこでは,付着藻類等生産者の生産速度や呼吸速度の測定は明暗ビン法により行い,あわせて生産者の現存量,生物遺骸等のデトリタス量,および底生動物の種組成・現存量の測定を行った。この調査結果も含め,3つの湖について比較検討をした結果,付着藻類のクロロフィル当たりの生産力には3つの湖間で大差ないものの,クロロフィル現存量は琵琶湖ではバイカル湖の約2倍,マラウィ湖では数倍も多く,また酸素ベースでの単位時間あたりの付着藻類の生産力は,琵琶湖はバイカル湖の約3倍,マラウィ湖では10倍近い差を認めた。底生動物では,藻類食と考えられる巻貝類およびトビケラ科昆虫と,それ以外のデトリタス食や捕食性のもの,あるいはその両方が明らかに含まれるヨコエビ類(バイカル湖のみ)に分けてその組成を比較すると,餌として藻類に対する依存性の大きな底生動物の割合はマラウィ湖において大きく,琵琶湖,バイカル湖の順に小さくなる傾向が示された。またマラウィ湖では,これら底生動物以外に藻類食の魚類が多数生息しているため,藻類の生産に依存する生物群の割合が大変高いことになる。一方,バイカル湖では,一般に大型ヨコエビ類が肉食性であることを考慮すると,藻類食者が占める割合はそれほど高くないと考えられる。したがって,当初計画に示した付着藻類等の生産者に依存した生食連鎖群と生物遺骸等に依存した腐食連鎖群に関する仮説はほぼ実証された。
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