研究概要 |
熱帯生Ficus属(F.benjamina,F.elastica)の根の締め付け力について研究し,その力の発現が今までに明らかにされてきた樹幹木部の成長応力発現のメカニズムで説明できるかどうかを検討することを目的とした。表面成長応力解放ひずみの測定から,樹木の場合と同様に繊維方向に引張,接線方向に圧縮の応力が発生していることが示された.樹木の樹幹と最も異なっていた点はゼラチン繊維分布の様子である.広葉樹の場合,傾斜して成育する樹幹の上側にゼラチン繊維が分布するが,Ficusの木根では髄付近に同心円状に形成・分布し,とくに直径の小さい気根では二次木部全体に分布する.これにより,細い気根では横断面全体に引張応力が発現していたと考えられる.肥大成長して太くなると髄付近を除いてゼラチン繊維が形成されなくなることから,引張応力は気根の肥大とともに小さくなっていくようである.実際,細い気根の方が表面成長応力解放ひずみの値は大きく,太くなると小さくなる傾向にあった.しかしながら,気根が締め付ける力は直径が大きくなるほど大きくなった.Ficus属の気根の締め付けに必要な軸方向応力は,ゼラチン繊維を形成することによって発生し,樹木の場合と同様にセルロースミクロフィブリルの軸方向への大きな引張応力発現が原因であるものと結論した.ただし樹木の場合は,傾斜樹幹を上に向ける(すなわち負重力屈性発現)ための成長応力であるが,Ficus属の気根の場合は,気根の軸方向の締め付け力を発生させる機能を発現するためと考えられる.
|