研究概要 |
本研究の目的は,カメルーン南部の熱帯雨林において,ピグミーとして知られるバカ人を協力者として,森の野生食物だけで一定期間生活するという実験的狩猟採集生活の観察調査を通して,1)熱帯雨林は農耕開始以前の人類の生息環境たりえたか,2)長期間,熱帯雨林が人類の生息環境でなかったのは何故か,そして,何がそれを可能にしたか,等について検討し,人類の生息環境としての熱帯雨林を進化史的観点から評価することである。本年度は,雨季における実験的狩猟採集生活を実施した。実験協力者はカメルーン南部のンドンゴ村に住むバカの8家族であった。うち4家族は2003年と重っている。実験に要した期間は9月末から10月末までの約4週間,場所は2003年の調査と同じ場所でンドンゴ村から徒歩2日を要するBek山麓であった。キャンプ地は実験協力者たちが自ら選んだ。調査は佐藤,山内,調査協力者の3名で行った。調査では,2003年の乾季と同様,採捕された食物の種類と量,エネルギー消費量(ライフコーダによる測定),活動域(GPSによる測定),適用技術,分業・協業などの行動学的資料,体重,血圧変動その他の協力者の健康・身体形質的資料などを収集した。現在,資料の整理中であるが,協力者たちが健康面に異常なく無事に実験期間を終えたこと,期間中,食物供給,および食物獲得のためのコストいずれも安定していたことは確認できた。20日間と期間は限られるが,乾季(2003年8月),雨季(10月)とも熱帯雨林における純粋な狩猟採集生活の可能性は否定されなかった。雨季においても,野生ヤマノイモがもっとも信頼できるエネルギー源としての役割を果たしていた。補完的エネルギー源は,獣肉,魚介類,ナッツ類,蜂蜜,シロアリなどであった。資料整理が済み次第,2003年の乾季,および2004年における定住村での資料との比較検討に取りかかる予定である。
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