研究概要 |
本研究の目的は,カメルーン南部の熱帯雨林において,ピグミーとして知られるバカ人を協力者として,森の野生食物だけで一定期間生活するという実験的狩猟採集生活の観察調査を通して,1)熱帯雨林は農耕開始以前の人類の生息環境たりえたか,2)もし,そうならば,それはいつからか,そして,何がそれを可能にしたか,等について検討し,人類の生息環境としての熱帯雨林を進化史的観点から評価することである。2003年は8月の小乾季,2005年には10月の雨季においてそれぞれ上記の観察調査を実施した。また,2004年には,狩猟採集生活と現在の定住集落における日常生活を比較するために定住集落における日常活動観察調査を実施した。また,そのとき,実験協力者のエネルギー消費量を推定するためにバカ人一般の基礎代謝量,諸活動の標準的エネルギー消費量の計測調査も実施した。資料の整理中である現在の段階で言えることは以下の通りである。小乾季,雨季とも20日間の農作物を利用しない狩猟採集生活は十分可能であった。期間中の主要食物は野生ヤマノイモであった。これは全食物エネルギー量の過半を安定的に供給していた。その他に獣肉,魚類,ナッツ類が主要な補完的食物として,さらに,蜂蜜,シロアリなど多様な食物が森における食生活を支えていた。それらの食物を得るためのコスト,すなわち,エネルギー消費については現在分析中である。この分析が終われば,さまざまな環境下における狩猟採集生活との比較が数量的に可能になり,人類の生息環境としての熱帯雨林の客観的評価の道が開けるであろう。また,この分析のためにおこなったバカ人60名の基礎代謝量調査によってピグミー系狩猟採集民の基礎代謝量が世界で初めて明らかになるだろう。なお,成果の一部は年末にインドで開かれる国際狩猟採集社会会議において発表する予定である。
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