この研究では京都議定書において吸収源の運用細則決定に至る交渉が難航した理由として、森林を京都議定書の吸収源として取り上げた際に、各国の利害が相反する場合が多いことを、欧州、北米、オセアニアなどの温暖化対策に関連した森林政策を調べる中で明らかにした。また、第1約束期間に向けた各国の森林分野における議定書への取り組みの状況を調べた。さらに、第2約束期間以降の温暖化政策における森林の取り扱いを京都議定書の流れの中で分析することにより、以下のことを留意すべきことが明らかになった。 ・第1約束期間において3条3項、3条4項対象となった森林は、そのまま炭素収支の報告を次期約束期間以降も継続することが、京都議定書の一貫性を保つ上で重要。 ・第2約束期間以降は3条4項の森林管理を全ての付属書1の国に適用するのか、希望する国だけでよいのかを交渉で明らかにすべき。 ・第2約束期間から3条4項が適用される場合、それに伴ってCDM植林事業も森林管理が含まれるのかどうかを明らかにする。 ・第1約束期間では3条4項の森林管理を選択し難くすることを希望する国は多かったため、計測、報告は交渉の過程でかなり煩雑かつ費用が掛かる様式になってしまっている。このため、第2約束期間に3条4項で森林管理を対象とすることが決まった場合、付属書1の国の中には技術的、財政的にこれに耐えられない国が出てくる可能性が十分に考えられる。 ・森林のように温暖化ガス削減効果の永続性を100%確保されないものと、排出削減のように効果が永続的なものを同じ枠組みの中で考えるのかどうかを検討。 ・多くの森林資源を有する国においては温暖化対策の道具の一つとして森林資源の扱いを十分に考慮することが、地球レベルで重要になる。それを気候変動枠組み条約の対象からはずすことは望ましくない。 ・UNFCCCでの森林の取り扱いと各国での林業生産活動が影響し合っており、例えば、自国での木材生産を積極的に進める国にとって3条4項の森林管理の条件は足かせとなる。そこで、両者のトレードオフを考えて、UNFCCCでの森林の扱いを考える必要がある。
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