熱帯林の断片化に伴う遺伝的多様性の減少を評価するために、適切な調査地として以下の調査地を候補林分として選定した。マレーシアの半島部にあるパソ森林保護区及びクアラルンプール市内に残るアンパン森林保護区の二カ所で行うこととした。パソの森林保護区は周辺がオイルパームのプランテーションで囲まれ、周辺の保護区以外の森林ではまだ伐採が行われている。保護区であるパソの森林はこれまでに多くの研究実績があり、我々のグループもDNAマーカーを活用した遺伝子流動の研究を行ってきた実績がある。またアンパン森林保護区はクアラルンプール市内に残る保護林で、かつてはクアラルンプールの水源林として活用されてきた。ここでは水源林として長く活用されてきた経緯から伐採は厳しく制限されていたので、現在でも良好な森林が現在でも残っている。本研究の2箇所の調査地での調査対象樹種としてフタバガキ科樹種で比較的広範囲でしかも高頻度で見られる樹種を対象とすることした。アンパン保護区での現地調査の結果、Shorea lepurosula、Neobalanocarpus heimiiが比較的高頻度で見られるため、この2樹種を中心として材料の採取を行った。ここアンパン保護区では森林のごく間近まで市街地が迫っており、森林の断片化の影響は特に周辺部に顕著に見られる可能性があるため、森林の周辺部と中心部分での現世代と次世代での遺伝的多様性の比較を行うこととした。本年度の調査では周辺分でS.lepurosula、N.heimiiそれぞれ5母樹とそれらの実生各30個体以上を採取した。また中心部分ではS.lepurosula5母樹とそれぞれから実生30個体以上を収集した。中心部分ではN.heimiiの母樹は高頻度で見られたが、実生が全く見あたらなかったため採取できなかった。
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