第二次大戦中に使用された血管造影剤トロトラスト(Th)は注射されると、主に肝に沈着する。被注入患者(Th症)は、α線の長期暴露によって肝悪性腫瘍を発症する。その中で血管肉腫(AS)の相対リスクが際立って高く、肝内胆管癌(CCC)も多い。旧ソ連のプルトニウム(Pu)製造工場マヤクでα線被ばくした患者にも肝ASとCCCが発症しており、病理組織標本は、ロシア南ウラル生物物理研究所(SUBI)に保管されている。ThとPuの肝発がんの分子機構を明らかにすることは、ヒトにおける放射線の発癌機構の解明につながる。 研究期間中2度の訪ロとドイツにおける打合せ1回を行った。SUBIが閉鎖的にも拘らず直接先方と接触し、肝病理組織ブロックを借り出せたのは画期的である。当初、遺伝子解析を試みたが保存が悪く成功しなかった。そのため、ThとPuの分布を確認するため6ヶ月にわたる超長期露光したオートラジオグラフィーを作製した。Th沈着は殆どマクロファージ内に認め、組織上Th沈着が明らかにも拘らず、αトラックの数はASよりもCCCで多く観察された。マヤクAS例では肝細胞と血液細胞にαトラックを認めた。現在、αトラックと組織改変を定量化している。我々の集積したト症肝腫瘍238例について検索したところ、投与時に血管外へ漏れたトロトラストによって3例に悪性中皮腫が発症していた。SUBIで保存されている組織を検討したところ、計7例に肺悪性中皮腫を見出し、これらの組織ブロックを借り出した。現在、薄切切片を作成したところで、アスベスト症中皮腫例を集積しつつある。今後、SV40ビールスの存在や細胞増殖因子の免疫染色を用いて、アスベスト症中皮腫との異動を検索することによって、放射線発癌の分子機構を明らかにする。
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