研究概要 |
本研究の目的は、過去19年間にわたる日本(女性死亡率で世界第5位)及び南米チリ(1位)での胆嚢がんの成因研究の成果を踏まえ、次の多発国ハンガリー(2位)で本症の成因を環境と遺伝の両面から明らかにし、その研究結果を日本及びチリと比較することである。 (1)ハンガリーの共同研究者とともに、既に収集した胆石を有する胆嚢がん群に対する胆石でマッチングした対照群の調査票データを収集し、残りのデータを確実に収集する方法を検討してきた。胆嚢がん群42例と対照群30例のロジスティック回帰分析の結果、胆嚢がんの有無に有意な重みを持つ因子は、唐辛子摂取、年齢の順であった。 (2)胆嚢がん発症における遺伝的感受性の有無を明らかにするため、患者42例と健常人100例を対照としてCYP1A1MspI(A, wild type ; B ; C)とCYP1A1Ile-Val(Ile/Ile, wild type ; Ile/Val ; Val/Val)遺伝子多型を解析し、胆嚢がん発生リスクへの関与を検討した。男女の患者と健常者群間のB型、C型及びIle/Val型、Val/Val型の頻度には有意差は認められず、これらの遺伝子多型との関連はなかった。 (3)ハンガリーの胆嚢がん20例と日本の胆嚢がん22例を用いて、p53遺伝子変異、K-ras codon 12遺伝子変異、MSI(microsatellite instability)を比較した。(1)p53遺伝子変異の変異頻度、ハンガリー例(6/18)、日本例(11/22)には差は認められなかった。(2)p53遺伝子の変異は、ハンガリー例と日本例とでそれぞれ10箇所と13箇所にみられたが、そのパターンは、日本例の4/13が外因性発がんを示唆するTransversion型であったのに対し、ハンガリー例では1/10のみであった。逆に内因性発がんを示唆するTransition型のCpG siteの変異は日本例にはなく、ハンガリー例には2/10認められた。(3)K-ras変異はハンガリー例、日本例いずれにも認めなかった。(4)日本例ではMSI-Hの頻度がハンガリー例に比べ有意に高かった(8/19、1/15,p=0.047)。 以上の結果から、ハンガリーと日本の胆嚢がんではその発がん機構が異なることが明らかとなった。ハンガリーの胆嚢がんの成因には、環境因子としてチリと同様の唐辛子摂取が検出された。遺伝要因では日本と異なる結果であった。
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