研究概要 |
1990年代後半になって、中国、台湾、フィリピン、韓国のトリクロロエチレンを使用する職場で、スティーブンス・ジョンソン症候群をはじめとする重症型の皮膚・肝障害が発生し、多数の死者が生じて深刻な問題になっている。患者は発熱や好酸球増多を伴い、発症率は作業者数百人から千人に1人、曝露開始から発症までの期間が約30日である等、遅延型アレルギー反応の特徴を呈している。原因物質(トリクロロエチレンかそれとも不純物か)、発症の量-反応関係や感受性決定因子などは未解明で、現在は病気の早期発見に努めるほか対策がなく、予防対策の確立が求められている。トリクロロエチレンはかつて日本でも多量に使われた溶剤であるが、同様な患者発生の報告はきわめて限られ、なぜ近年になってこれらの国々で多くの患者が発生するようになったのかは謎である。平成17年度は32名患者と性・年齢をマッチさせた対照群を設定し、HHV6の再活性化やその他のウイルス感染との関わりの症例-対照研究、およびトリクロロエチレン曝露との関わりについて検討した。HHV6の抗体価が256倍以上の者をHHV6陽性者とした。 患者32名中HHV6陽性者は8名であったが、対照者の中には陽性者はいなかった。マイコプラズマIgM,単純ヘルペスウイルス1、2型IgM, IgG抗体、EBウイルスIgA抗体、サイトロメガウイルスIgM抗体、風疹ウイルスIgM抗体、麻疹ウイルスIgM抗体、マイコプラズマIgM抗体、血清IgE, IFN-γ、IL-4,IL-5も測定した。麻疹ウイルスIgM抗体陽性者が患者群に2名に認められた以外はいずれも患者群にも対照群にも異常者は認められなかった。尿中トリクロロエチレン代謝物量から、患者群は平均、日本産業衛生学会が勧告している許容濃度の倍以上の環境下で作業をしていたことが明らかとなった。これらの結果は、トリクロロエチレンによる重症型の皮膚・肝障害の患者は比較的トリクロロエチレン高濃度下で作業し、HHV6の再活性化が関与していることを示す。
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