研究概要 |
タイ国においては、寄生虫、特にタイ肝吸虫の感染率が胆管癌の発生率とよく相関し、国際がん研究機関IARCはタイ肝吸虫感染はヒトに対して発がん性が有る(Group1)と評価している。本研究は、タイ肝吸虫感染が発がんの好発臓器に強い炎症を生じることに注目し、炎症部位で活性化されるマクロファージおよび好酸球などから生成される一酸化窒素(NO)およびスーパーオキサイド(O_2^-)が発がんにどのような役割を果たすかを明らかにする。 (1)タイ肝吸虫を感染させて飼育したハムスターから、肝臓などの臓器を摘出して免疫組織染色および電気化学検出器付HPLCにより、iNOS、8-nitrodG、8-oxodG、ニトロチロシン等を解析し、炎症像との関係を検討した。8-oxodG生成は好酸球浸潤に一致して、感染後21日目にピークが認められた。血清NO量、iNOSの発現および8-nitrodGの生成は単核球浸潤に一致して、感染後21日目にピークが認められた。8-nitrodG、8-oxodGは、ともに漸減したが感染後60日目でも検出され、炎症を介した発がんへの関与が示唆された(BBRC,309,567,2003)。 (2)ニトロチロシンは炎症のバイオマーカーとして、種々の炎症性疾患や感染の組織や血清中に検出されている。また、NOに曝露されたMutatec tumorのヒストンでは、チロシンがニトロ化されていることが報告されている。P450 reductase存在下ににおいてニトロチロシンは、ニトロ還元を受け、再酸化する際にO_2^-を生じ、金属イオンの存在下でDNAを酸化的に損傷することを見い出した。ヒストンペプチド中のニトロチロシンはDNA近傍にあり、炎症関連発がんのひとつの要因であることが示唆された(BBRC,316,123,2004)。
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