研究概要 |
本研究は,中国雲南省において現在でも用いられている少数民族薬について,その原植物,利用部位,利用方法,利用目的(病気等),およびその民族薬に関する諸情報の収集と,収集された材料の解析を進めることによるそれら薬物の有効利用を目的としている。本年度は雲南省東南部の紅河哈尼(ハニ)族彝(イ)族自治州,ならびに文山壮族苗族自治州における調査を展開した。調査方法ならびに結果の概要は次の通りである。 1.少数民族の多く居住する集落に赴き,そこで開催されるバザール(交易会)や市場において販売されている民族薬について,販売人に直接インタビューしてその来歴や使用方法,使用目的に関する情報を収集した。さらに,それらの民族薬を購入し,共同研究者である中国科学院昆明植物研究所の協力のもと,植物学的に同定した。また,採集可能な植物に関してはさく葉標本として,同研究所にて植物種の同定を行った。 2.少数民族居住地域の民間医を尋ね,彼らが使用する薬物について直接インタビューしてその使用方法,使用目的に関する情報を収集した。入手可能な薬物に関しては標本とし,現植物の同定を行った。 今回の調査では得られた伝承薬,民族薬の情報は310種に上り,そのうち230種については植物種の同定が終了した。対象とした民族は泰(タイ)族(収集した民間薬8種,以下同じ),拉〓(ラフ)族(12種),哈尼族(32種),彝族(20種),苗族(142種),瑶族(26種)で,それ以外に漢族の民間薬に関しても情報を得ることができた。薬用植物の中には異なる民族間で使用されているものも多く見られ,その使用目的は同一であるとは限らないことがわかった。また,彝族,瑶族の伝承薬においては複方として利用しているケースが多く,民間医療が継承されている実例として興味深い。また,治療対象となる疾病にはリウマチ,肝炎,眼病,肺結核と多岐にわたっている。 今回得られた情報に関しては動画記録(デジタルビデオならびにDVD)として保管しており,また,写真を徳島大学薬学部,さく葉標本および生薬標本を中国科学院昆明植物研究所にて保管している。
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