【背景】慢性維持透析患者は年間増加の一途を辿っており、進行性腎障害の病態の解明と進展抑止の方策の確立が望まれている。透析導入の主因であるIgA腎症は、(1)IgAの分子異常(糖鎖不全型IgA、重合化IgA)と(2)メサンギウムでのIgAクリアランス、(3)扁桃組織における免疫応答の異常が関与すると考えられる。発症機序の原因解明にむけて臨床症例のデータ蓄積と情報基盤の確立が望まれる。 【目的】IgA腎症はアジア諸国に発症頻度が高く、日中の共同研究によって症例の臨床・病理・遺伝素因の比較研究を行い、病態解明・治療法開発の基盤を作る。 【方法・結果】徳島大学病院と関連病院、そして中国解放軍総医院で腎生検したIgA症例の臨床調査を行った。本邦の症例に比し、中国の症例は生検時にクレアチニンクリアランスが低い傾向があった。扁桃腫大・扁桃細菌培養の結果、家族歴の有無、血清IgA値、治療薬の内容、腎機能の経時的な変化を主要調査項目としてデータの収集を行った。また、本邦において症例の遺伝素因を調査したところ優性、劣性遺伝様式のIgA腎症の家族性集積例がみられること、さらに紫斑病性腎炎とIgA腎症の両方が家族性に多発する症例があることがわかってきた。現在中国との情報交換を行いながら、症例データベース化、サンプル収集を進めている。 【考察】今後IgA腎症の病態に関する新たな知見や、EBMに基づいた診断・治療指針が、アジア諸国から発信されることが望まれる。今回進めている日中共同の症例データベースの作成は、治療法選択に関するRandomized Control Trialやまた遺伝子連鎖・相関研究を行う基盤となり、社会に広く貢献する。
|