研究概要 |
今年度は主として次の2つの方向で研究で行った。 一つは、古典情報幾何学における基本構造であるFisher計量とe-,m-接続の成す双対平坦構造の一連の量子力学的対応物を、できる限り統一的な視点のもとに整理する作業である。忠実な量子状態(正則な密度行列)全体の成す多様体上には、Fisher計量に相当する幾何学的構造として、単調計量と呼ばれるリーマン計量の族が定義され、その数学的特徴付けが与えられている(D.Petz,1996)。個々の単調計量は密度作用素の対数微分の概念を導き、そこから双対接続構造が自然に定義される。これらの構造の中には、量子推定理論と関連するもの、量子相対エントロピーの幾何とみなせるものなど、さまざまな重要な構造が含まれている。このような量子情報幾何構造の一般理論といくつかの個別構造の特徴、物理的・情報理論的意義などについて考察し、電子情報通信学会論文誌(量子情報工学小特集)への招待論文としてまとめた。また、2004年5月にはカナダのMcMaster大学およびFields Instituteで開催されたWorkshop on Quantum Information Geometry and Quantum Computationに招待され、2週間の滞在を通して、これらの話題に関する研究討論と講演を行った。 もう一つは、量子状態推定に関する幾何構造と複素幾何との関連を探る研究であり、これは量子情報幾何学における新しい方向性の模索と言える。部分的に得られた結果を、2005年1月に都立大学で開催された研究集会「微分幾何学と情報幾何学の関わりと展開」で発表した。 その他の関連研究としては、ユニバーサルデータ圧縮の一般理論、量子通信路の推定、最適データ圧縮に関する情報理論の「伝承問題」などがある。
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