研究概要 |
本研究では実用性,特に開発現場への導入の容易さを重視した,ソフトウェア最終品質の推定モデルの開発を追求している.実用性を考える上で次の3点に特に配慮している.まず1.推定を行うタイミングに注目する.遅くともテスト工程が始まる時点で推定が行えることを目指す.次に2.利用する時系列データは開発現場で容易に収集可能であり,推定モデルの適用もできる限り分かりやすいものとする.さらに,3.推定結果をソフトウェア開発プロセスの改善につなげることにも挑戦する. 平成15年度は,設計・コーディング工程での時系列データを利用した最終品質の推定と改善について研究を進めた.具体的には,設計工程とテスト工程での作業属性の間の関係を,ソフトウェアメトリクスを用いて明らかにすることを目指した. 設計工程はソフトウェアの実現手段を決める工程であるが,気付かない間に不具合を作り込んでしまっていることも事実である.そこで,設計工程で不具合が作り込まれる状況とテスト工程で不具合が検出される状況の関連を調べた.一般には,良いレビューが行われるとテスト工程では混乱が発生しにくいので,不具合の検出は理想的な状況になる.具体的には,レビューに関するメトリクスを中心にして統計的分析を行った.分析では次の3種類のメトリクスのデータを分析の対象として考えた.1.レビュー作業の量を測る「コードレビュー比率(設計工程に必要な工数に対するレビュー工数の比率)」,2.レビュー作業の質を測る「単位規模あたりのレビューで発見した不具合数」,3.レビュー作業の効率を測る「単位レビュー工数あたりの発見不具合数」である.まず,これらのメトリクスで測定される時系列データを利用して,良いレビューを定量的に定義した.次に,本研究で利用したプロジェクトデータを良いレビューを行ったものとそうでないものの2つのグループに分類した.最後に,それらの分類結果とテスト工程での不具合検出傾向との関係をベイジアンネットと呼ばれる確率的手法を用いて明らかにした. これまでの成果をまとめた研究論文を,現在,国際論文誌Software Quality Journalに投稿中である.
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