研究概要 |
平成15年度は,本研究に関して8件の研究発表を行なった. 色彩美分析の対象として,国立歴史民俗博物館所蔵の野村正治郎近世きものコレクションのうち小袖資料について,画像の各画素が測色値(たとえばCIEXYZ物体色値)で表わされる色彩画像の撮影を実施した.その過程で,大型のきもの資料の撮影においては,照明方法と照明ムラ情報取得の問題,やわらかい(形状が一定しない)対象であるがゆえの安定性の問題,および,絹織物に特有の光反射特性に対する理解の問題,など,解決すべき種々の問題が存在することを再認識した.そこで,数十点規模の撮影を実施するという当初の計画を変更し,撮影のための問題点を整理し,解決の方向性を見定めるための研究を,平成15年度に実施した. デジタルカメラを利用した,測色値が得られる色彩画像の撮影方法について研究を行ない,第59回情報処理学会人文科学とコンピュータ研究会(2003年7月,東京都調布市),国際色彩学会中間大会(2003年8月,タイ王国バンコック),カラーフォーラムJAPAN2003(2003年11月,東京都新宿区),および人文科学とコンピュータシンポジウム「じんもんこん2003」(2003年12月,千葉県佐倉市)において,順次研究成果を報告した. 絹織物は,光を当てる角度や見る角度,および資料における織糸の方向などによって,光の反射特性が大きく変化する.そこで,典型的な技法で織られた絹織物(繻子織等)について,分光立体角反射率の3次元測定を実施し,まずは反射特性を定性的にとらえることを試みた.測定の方法及び結果について,国際色彩学会中間大会(2003年8月,タイ王国バンコック),およびカラーフォーラムJAPAN2003(2003年11月,東京都新宿区)で発表した.今後は,得られた結果をもとに,絹織物の数理的モデルの推定を行ない,限られた撮影画像からパラメタ推定を行なって,きものの色のシミュレーションを行なう方向で研究をすすめたい. 得られたきものの色彩情報を,さまざまな角度から分析し,配色デザインなどに利用するためには,それを支援するためのコンピュータソフトウェアの開発が欠かせない.平成15年度は,すでにデータとしてもっている,中世貴族の装束等に用いられた配色システムである「かさね色目」について,これをコンピュータ画面上で,十二単(女房装束)をまとった女性貴族の画像に,指定した「かさね」に基づいて着色して表示するシステムを開発した.これにより,実用としてのかさね色目のシステムを直裁的に理解することができるようになった.この成果は,第34回日本色彩学会全国大会(2003年5月,新潟県新潟市),および国際色彩学会中間大会(2003年8月,タイ王国バンコック)において発表した.
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