研究概要 |
本研究の成果は,大きく次の6つに分けることができる:1)きもの資料の色情報を取得するための基本的な問題認識の確立,2)デジタルカメラを用いたきもの資料の色彩情報の取得,3)絹織物の変角分光反射率測定および綾織物の分光反射率予測,4)かさね色目表示システムの開発,5)種々の色彩分析手法の開発,6)その他. 1)色彩美分析の対象として,国立歴史民俗博物館所蔵の野村正治郎近世きものコレクションのうち小袖資料について,画像の各画素が測色値(たとえばCIEXYZ物体色値)で表わされる色彩画像の撮影を実施した.その過程で,大型のきもの資料の撮影においては,照明方法と照明ムラ情報取得の問題,やわらかい(形状が一定しない)対象であるがゆえの安定性の問題,および,絹織物に特有の光反射特性に対する理解の問題,など,解決すべき種々の問題が存在することを再認識した.そこで,数十点規模の撮影を実施するという当初の計画を変更し,撮影のための問題点を整理し,解決の方向性を見定めるための研究を中心に実施した. 2)デジタルカメラを用いたきもの資料の色彩情報の記録について,5件の研究発表を行った.関連して,国立歴史民俗博物館の所蔵する錦絵資料のデジタルカメラによる撮影とデジタルアーカイブの構築について,2件の発表を行った.このうち,情報処理学会人文科学とコンピュータシンポジウム「じんもんこん2004」(2004年12月,京都市)における発表は,平成17年度情報処理学会山下記念研究賞(人文科学とコンピュータ研究会推薦)を受賞した.これらの成果をふまえて,きもの資料を含むさまざまな種類の資料(とくに博物館・美術館が収蔵する資料を念頭において)について,デジタルカメラで撮影を行なう際のガイドライン,とくに照明の状況による撮影対象のカテゴリー化の方法を提案し,3件の研究発表を行った. 3)絹織物は,光を当てる角度や見る角度,および資料における織糸の方向などによって,光の反射特性が大きく変化する.そこで,典型的な技法で織られた絹織物(繻子織等)について,分光立体角反射率の3次元測定を実施し,反射特性を定性的にとらえることを試みた.測定の方法及び結果について,2件の研究発表を行った.また,複雑な表面形状をもつ綾織の布について,経糸緯糸の色が異なる布の分光反射率を推定するための,光の反射に関するマクロモデルを立て,検証した結果について,2件の研究発表を行った. 4)中世貴族の装束等に用いられた配色システムである「かさね色目」について,これをコンピュータ画面上で,十二単(女房装束)をまとった女性貴族の画像に,指定した「かさね」に基づいて着色して表示するシステムを開発し,2件の研究発表を行った. 5)きもの資料の色彩分析に応用できる,種々の色彩画像の計量分析手法について,10件の研究発表を行なった. 6)日本色彩学会誌に,きもの資料の色彩分析に関する査読論文を投稿し,採択,掲載された.その他,2件の研究成果報告を行った.なお,研究代表者は,2005年4月10日放送のNHK教育テレビの番組「新日曜美術館」に出演し,ゴッホの絵画の色彩について分析および解説を行ったが,分析に用いた諸技術は本課題研究と深く関連するものである.
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