本研究の実験用システムは、アクリル板を加工した触覚ガイドを付加したコードレスペン入力方式タブレットと音響信号出力用のヘッドホンがパソコンの入出力に接続されている。視覚障害者はレイアウト情報やグラフィック・パターンのデータをこのタブレットから入力し、触覚と聴覚を併用して入力したデータの位置を確認する。また、GUI画面上のオブジェクトのレイアウトやカレンダーなどの2次元構造体の情報はあらかじめ仮想音響スクリーンの位置に対応する音響信号に変換されてクライアントPC内に保存されているので、GUI画面に対応したボタンをクリックすると音信号が出力され、さらにペンカーソルやマウスカーソルを操作すると、その位置に対応した点音像が移動するので、その軌跡で文字や図形の形状も把握できる。本年度は実空間の音像定位、特に垂直方向(正中面)の音像定位のメカニズムを探りながら、HRTFを考慮した音像定位を模擬する仮想音響スクリーンの構築方法について検討した。さらに、視覚障害者用情報端末としての入出力機能について基礎的な検討を行った。 実施項目は次の通りで、有用な知見を得るとともに次年度への足掛りとした。 (1)正中面の音像定位の要因およびヘッドホン受聴における効果的な音像の模擬方法について検討した。インパルス応答計測システム、精密計測用レベル計、音響測定用ダミーヘッド等を用いて、正中面の音像定位の要因とその音像合成法を検討するために、近距離音場において、耳介レプリカを用いた耳介音響伝達関数の測定、音響用ダミーヘッド(高研)によるHRTFの測定、被験者の実頭を用いたHRTFの測定を行い、それぞれの測定方法によるHRTFの特徴を比較しながら正中面の音像定位の要因を探ると共に、インパルス応答長、肩からの音波の反射等を考慮した音像の効果的な模擬法を見出した。 (2)上記の知見を基に、正中面のHRTFと両耳間差の情報を組み合わせた要素による仮想音響スクリーンを構築し、音出力の有効性を確認すると共に、これに対応するタブレット入力の形態を考察した。
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