本研究の目的は、空列代入を許す正規基本形式体系(EFS)の正例からの帰納学習可能性およびその基礎理論の構築である。これに関して以下の成果をえた: 1.基本節と帰納節と呼ばれる2つの節(公理)からなる原始形式体系で定義される言語は、正規パターン言語の無限和で表現出来ることを示した。 2.原始形式体系が既約(reduced)となる必要十分条件を得た。また、既約か否かが多項式時間で計算可能であることを示した。 3.既約原始体系が定義する言語の包含問題をそれらに含まれる正規パターンの包摂問題に帰着した。 4.原始形式体系で定義される言語の有限証拠集合を具体的に提示することにより、その存在性を示した。 また、これらのクラスがM-有限の厚さと呼ばれる集合論的な性質を有することを証明した。 5.原始形式体系を含むより一般的な単純形式体系及び正規形式体系は、公理の個数を高々k個に制限したとき、空列代入を許さない場合は学習可能であることが示されている(Shinohara95)。しかし、本研究では、空列代入を許す場合は、これらの形式体系は学習可能でないことを証明した。 6.原始形式体系は、丁度2つの公理からなる正規形式体系であるが、別の構文的条件を課した正規形式体系を導入し、その正例からの学習可能性を示した。 7.6で得られた結果をSHシステムで生成される言語の学習問題に応用した。SHシステムは、DNA配列の組み換え、すなわちスプライジングモデルを簡素化したモデルである。SHシステムで生成される言語は、ある特別な性質を有する正規言語である。本研究では、SHシステムで生成される言語を、空列代入を許す正規形式体系を用いて構成し、上記6の結果を用いて、その正例からの学習可能性を証明した。 8.正規パターン上の決定木で定義される言語は、正規パターン言語及びコ正規パターン言語に高々有限回の積及び和を施して得られる。本研究では、正規パターン言語の積・和を有限回施して得られる言語の族が有限の弾力性を有することをしめし、その学習可能性を示した。コ正規パターン言語に関しては未解決である。
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