今日インターネットや携帯通信網の普及は目覚しく、膨大な量の文字・画像・音声データが日々交換されている。しかしながら、人と人との日常的なコミュニケーションにおいて重要な役割を演じている「力覚情報の交換」についてはまだ研究の段階にあり商用レベルで実現されるまでには至っていない。本研究では、力覚情報の直接的交換によって成立する「腕相撲」に着目し、「アーム型システム」と「直交座標型システム」の2つのアプローチから、離れた場所にいる者同士が対戦可能となる「遠隔腕相撲システム」の構築を目指した。「アーム型」は、デバイス自体が腕の形をしているため、直感的な腕相撲対戦が可能であるが、機械的に拘束された構造を持つため、腕からデバイスへ本来伝えられるべき力覚や位置の情報が完全に伝わらず、そのような欠落した情報を再構築するメカニズムが必要である。デバイスの構造上、腕の動作する範囲が制限され、対戦相手の体格が再現できないという問題点もある。一方、「直交座標型」は、デバイスがXYZの3方向に駆動軸を持ち、稼働範囲内であるならば3次元的に自由に動作可能で、対戦相手の体格の再現も可能である。しかし、逆にソフトウェアにより拘束を与えなければ腕相撲の軌道を描かせることができず、制御面の工夫が性能に大きく影響することが予想される。そうした状況の下、先ず対戦に必要なデバイスの構造についてハード面から詳細に検討し、「動きの滑らかさ」と「強度」に注目して実機の試作・改良を行った。また、制御方式の違いによるシステムの操作性に関してソフト面から検討を行い、力を入れた状態と力を抜いた状態では腕の機械的インピーダンスは大きく異なることから、そういった点に着目した新しい制御方式を提案した。さらに、腕相撲の際に重要となる自由度を実験的に検証し、システムの腕部分に搭載すべき手首関節部についても詳細に検討した。本研究での成果を踏まえ、より臨場感のある「遠隔腕相撲システム」を目指すとともに、「遠隔スポーツ」に関わる一般論の構築に向けて研究を続けたいと考えている。
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