研究概要 |
本研究では,感性プロセスとして,下位から(1)基礎感性→(2)快適感性→(3)嗜好感性→(4)芸術感性→(5)絶対感性という階層構造を有する計算モデルを仮定した.それと並行する「記憶・経験を蓄積した知識データベース」と相互作用を行いながら感性情報処理は進められ,より上位の感性プロセスの処理結果が「最終的な感性」を決定し,それが必要に応じて言葉を通して表現されると考えた. 平成15年度は,上記の仮説の妥当性を,感性表現語を用いた二つのシリーズ実験により検証した.シリーズ1は,評価語を実験者が与える実験であり,被験者(60名)に感性表現語215語の使用頻度を評価させて代表的な100語を選定した.続いて,それらの各語の間について主観的距離を測定し,結果を多次元尺度構成法によって解析した.解析結果から,仮定した階層構造は概ね妥当であり,さらに「情緒感性」の階層があることが明らかとなった. シリーズ2は,評価語を被験者に想起させる実験であり,刺激として34枚の写真を被験者(11名)に提示し,感性評価語を自由に想起させた.この実験結果をシリーズ1で得た階層構造にマップしたところ,「芸術感性」の階層が欠落している被験者が見られた. 平成16年度は,知識データベースが感性プロセスに及ぼす影響について検討した.感性を想起させる刺激として音楽を用い,それに影響する知識として演奏者情報を与えた.音源と演奏者情報の組合せから成る8刺激について,被験者(14名)が12種類の感性評価語に関して評価を行った.その結果,同じ音源であるにもかかわらず,与えられた演奏者情報によって,曲に対する感性が統計学的に有意に変化する場合が見られた.このとき,知識データベースが影響するのは,感性レベルの中位以上に限定されることが示された. 以上から,本研究で仮定した階層構造の妥当性が実証された.
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