小規模診療所の待合室付近での問診、税務署窓口での納税相談、学校の教室での学習進路相談、仮設ブースでの法律相談など、開放的な空間におけるスピーチ・プライバシーの保護は重要視されている。本研究の目的は、会話音声を無意味雑音によりマスクすると同時に、スロートマイクロホン(話者の咽喉部の振動信号を利用したマイクロホン)・アンプ・密閉型ヘッドホンを使用することによって、開放的空間においてスピーチ・プライバシーを確保するための装置を設計・試作することである。 1.様々な指標の中でスピーチプライバシーを保証するために最適な指標を選定した。その結果、スペクトル距離が選定された。 2.音声のスペクトルは個人ごとに異なるため、うるささの心理的印象を低く抑えるには、個々の音声スペクトルに応じたマスキング用雑音を用いることが有効であることがわかった。このような観点から、音声と同一スペクトル形状をもつ雑音を発生する装置を構築した。音響心理実験を行った結果、構築した雑音発生装置の妥当性を確認した。 3.スロートマイクロホンの周波数特性を測定したところフラットではなく、若干聞き取りやすさにも欠けるといった問題点が浮上した。他方、周囲の暗騒音が比較的高い場合にマスキング用雑音を過剰に放射し、若干うるさいという印象を受けるといった問題点が判明した。周波数特性補正回路を作成し装置に組み込んだ結果、聴き取りやすさが改善され聴取成績が向上することが明らかとなった。また、周囲の暗騒音を考慮しマスキング用雑音を発生する機構を作成し装置に組み込んだ結果、うるささが低減されることが明らかとなった。 4.以上で明らかとなった改良点を踏まえて、小型・可搬・軽量な改良型装置を試作した。音響心理実験を実施した結果、試作した改良型装置の有効性を確認した。
|