研究概要 |
<実験の目的> 今年度の目的は、評定者の正面前方に縦方向に設置したマルチスピーカを用いて、音の上方移動感、及び音の下降感と、物理量との関係を明らかにすることにある。 <今年度の実績> 1.下方移動感の有無 評定者の手前4.5mの位置に、垂直方向に設置された8個のスピーカ(以下SPと略す)のいずれかを起点に音を下方に移動させた。音は中心周波数1,4,8kHzの1/3オクターブ帯域雑音を用い、8秒間で下降が終了するようにした。評定者には、音の始点及び終点と思われるSP番号を同定させた。その結果、いずれの組合せにおいても、88%の評定者が、中心周波数に関係なく、始点位置よりも終点位置の方が下方にあると回答し、下降感が実現できることが分かった。この発見は、本研究が初めてである。 2.音の移動速度が音の上昇感、下降感に与える効果 音源の移動速度が、音の上昇感に与える効果を調べるため、SP番号1からSP5までの120cmにわたり、移動速度を10cm/s,20cm/s,30cm/s,37.5cm/s,45cm/s,75cm/s,150cm/s,300cm/sの8種類変えて実験した。その結果、10cm/sの時、物理的距離と同じだけ上昇したと答えた評定者の割合は16.7%であったのに対し、150cm以上移動したと感じた評定者の割合は44.3%であった。この心理的オーバーシュートの割合は、移動速度が増加するにつれ減少し、300cm/sでは、上昇感を感じたものの、心理的移動距離は、30〜90cmまで移動したと回答した評定者の割合が53.3%で、逆に下降したと答えた割合は20%近くになった。 次に、音源の移動速度が、音の下降感に与える効果を調べるため、SP番号6からSP2までの120cmにわたり、移動速度を上昇時の実験と同じ8種類変えて実験した。その結果、10cm/sの時、物理的距離と同じだけ下降したと答えた評定者の割合は16.7%であったのに対し、150cm以上移動したと感じた評定者の割合は63.3%であった。この心理的オーバーシュートの割合は、移動速度が増加するにつれ減少し、300cm/sでは、下降感を感じたものの、心理的移動距離は、30〜90cmまで変化したと回答した評定者の割合は60%、逆に下降したと答えた割合は15%程度あった。 3.音声バランスの実態調査 将来、マルチチャンネルスピーカによる放送音声を考えた場合、現在の放送音声の番組感バランスなどを調査し、聞き取りやすい音声バランスを規定しておかなければならない。このための実験を継続した。
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