研究概要 |
(1)感性増幅効果を得るための体感音楽聴取条件の明確化 これまで筆者等は電磁コイル振動体や風船,ボディソニックを用いて掌や外耳周辺部,体の背面に音楽振動を付与しその聴取方法が人の感性に与える影響を検討し振動の有効性を把握した.その結果,背面への振動は「ドラム振動による乗りの良さ」という限定的な効果しか得られないこと,空気振動が有効であり振動楽器を選択しなくても良いこと等がわかった.そこで,音源を懐に抱きつつ音源からの極近傍音と振動触覚を体の前面で得るという新たな音楽聴取方法について検討した.20歳代前半の男女を被験者とした限定的な条件ではあるが,楽器演奏経験の有無に関わらず,今回提案した体感音楽聴取方法は,遠方スピーカー再生音単独による音楽聴取方法よりも好まれることがわかった.また,体感音楽聴取方法も含めた音楽聴取時に抱く印象構造を因子分析により検討した結果,迫力感因子と明快感因子に分けられることが把握できた.この中で遠方スピーカー再生音を付加した体感音楽聴取方法は,特に「迫力」を高めその結果「演奏会場にいる感じ」や「演奏している感じ」といった臨場感を感じさせることが分かった.また聴取スタイルによって演奏者感が得られることも分かった. 以上の結果,遠方スピーカーによる音楽再生を行いながら音源及び音楽振動を体前面に付与する方法は,従来の遠方スピーカを介した聴取法とは異なった魅力を付加する新たな音楽聴取方法になりうるものと考えられる. 今後は,普遍的な結論を得るためにアコースティックギターだけでなく様々な形状や材質の装置を用いて同様の検討を行う.また,今回の実験では得られなかった「聴き続けたい」「癒された」という評価に至る体感音楽聴取方法についても検討を行なう. (2)情景の聴覚・視覚・触覚情報およびその組合せによる印象構造の解明 上記の体感音響装置を情景視聴に適用し、視聴覚情報コンテンツにも活用できるようにするための基礎検討を行った。その結果、通常のTV付属のスピーカーで視聴する場合よりも、体感音響装置を用いて至近音視聴をしたほうが好まれること、さらに振動を感じながらの視聴がもっと好まれる事がわかった。また、その要因として、通常のTVスピーカーで視聴するよりも「激しさ」、「迫力」、「臨場感」といった印象が強調されるためであり、この印象が振動付与の有効性を引き出したためである。体感音響装置による印象変化の因子構造と評価語の関係からも、体感振動が有効となる条件はこれらの印象語が含まれる迫力感因子によって導かれる事がわかった。一方、振動付与によって「見続けたい」という評価に至るためには快活感因子に属する印象が強調される必要があるが、今回の視聴実験ではこの評価は得られなかった。さらに、視聴覚サンプルの選定範囲を広げ準実験、およびサンプル呈示時間依存性を把握する実験が必要である。
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