研究概要 |
感性増幅を意図した体感音楽聴取方法については,平成13年度〜14年度の科研費基盤研究(C)から,音楽聴取時に音から抽出した振動触覚を付与することにより音楽の特定の印象を強調して鑑賞できることを主観評価により明らかにできた.振動付与媒体としては空気振動を介するもの,振動付与箇所としては掌や腹部を含めた体全面が有効であるという結果も得られた.本成果に基づいて,アコースティックギターの共鳴箱が空気振動を体前面に付与する媒体として適していることに着目し,アコースティックギターの共鳴箱の開口にスピーカから音を吹き込む体感音楽聴取装置を試作した.従来の遠方スピーカ音による音楽鑑賞方法より,腹部と手で振動を感じながらスピーカと共鳴箱から聴こえる至近音で音楽の特定の印象を強調して鑑賞できることを明らかにした.ただし,迫力,臨場感,演奏者感などが強調できる聴取方法ではあるが,聴き続けたいあるいは癒されるといった上位の感性に訴える技術には至っていないという結果であった.新しい体感聴取法が従来の音楽鑑賞法に取って代わるくらいの魅力を持つには,聴き続けたくなる,癒される,没入感がある等の上位の感性増幅が必要である.そのため,体感聴取で得られる立体音像の中で聴取者が感じる位置が感性にどのような影響を及ぼすのか、さらに複数の人が体感音を共有あるいは体感音パートをシェアしながらインタラクティブな音楽聴取を行うことが感性にどのような影響を及ぼすのかを解明することが今後の課題と言える。 一方,情景の聴覚、視覚、触覚情報およびその組み合わせにより与えられる印象構造の解明については,筆者らは初めて情景シーン(映像+音)に音から抽出した振動触覚を付与し,感性への影響を主観評価により検討した.振動触覚付与は上述したアコースティックギターを利用した体感音聴取装置を用いている.その結果,迫力感は増幅されるが「見続けたい」などの上位の感性増幅には至っておらず,振動触覚付与の効果は必ずしも得られなかった.振動触覚付与の効果を明確にするには,映像シーンと視聴者の映像に対する立場の違いによる振動付与効果の違い,映像,音像,体感音像のそれぞれの位置の調整の仕方による感性増幅効果への影響など,基礎的な検討が必要である.大型映像ディスプレーと3次元映像ディスプレーに動画映像,静止画映像を映し,ステレオ音声とアコースティックギターを利用した体感音を組み合わせた,視聴触覚システムを構成し,主観評価実験により上記課題を解決するための研究を開始したい.
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