20世紀の人文学に大きな影響をもたらした<記号論Semiotics>の知見を<情報学>の研究に活用するための理論的書き換え作業を体系的に行い、その研究成果を<情報記号論Information Semiotics>として学問的に体系化する基礎を提示することによって、人文学と情報学との間の学的インタフェースの発展に寄与することをめざす本研究は、平成15年度の初年度研究において理論・実践双方の部門に置いて次の作業をおこなった。 1)理論基礎研究作業:コーパスの作成:長尾真他監修の岩波講座「マルチメディア情報学」全12巻およびそれに関連する文献・関連知見群を記号論との書き換え関係をつくるための「ターゲット・コーパス」と呼んでその項目体系とカテゴリ階層を分析しマッピングする作業をおこなった。概念翻訳作業:「ターゲット・コーパス」と「操作概念コーパス」とのつき合わせと翻訳関係の実行によって得られる知見が、<情報学>の知見と<記号論>のそれとの間に<解釈関係>を作りだすことによって得られる<情報記号論>の新たな知見の定式化となるという発想にもとづいて「情報記号論」の知見の論理的階層化・体系化のための検討作業を終えた。 2)応用実践作業:以上の理論基礎作業を実践面においてサポートし可視化するツールが、ハイパーテキスト事典「知恵の木」の制作の研究作業である。これは研究代表者が配置する理論的基礎線分に、研究参加メンバーがそれぞれの理論貢献や実例等を「枝葉」のように付加していくことによって「理論を具体的に育てていく」ための一種の共同制作事典である。このハイパーテクストツールの設計作業をおこない、そのアーキテクチュアを構想する作業を終えた。 3)国際研究交流:情報記号論の研究構想の深化について従来から研究協力関係にあるフランスのCNRS、Hautes Etudes en Sciences socials、パリ第8大学を研究協力パートナーに、これまでに蓄積されてきた記号論研究の成果を踏まえつつ、情報記号論、ハイパーメディア分析、情報哲学等について幅広く研究情報交換をおこない研究関心の国際的共有を促進するため、「ロラン・バルトの記号学とハイパーテクスト」に関するを英国、フランスの研究者との研究討論会を2003年11月に東大駒場で実施した。
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