研究概要 |
平成15年度は2年間にわたる本研究計画の初年度として,当初計画に基づいて研究を行い,所期の目的をほぼ達成することができた.以下に得られた成果の概要について報告する. 1.対象文書中の筆跡を詳細に分析するためには,まず文書から対象筆跡を正確に抽出する必要がある.これを実現するためには,既に開発した文書画像の写像ヒストグラムと筆跡の配置情報に基づく抽出法に色彩情報を加えて抽出する手法を新たに開発した.この方法は,対象筆跡が印影や他の印刷情報と重複している場合でも正確に対象筆跡を抽出することが可能である.多様な様式・筆記状態の文書を用いて抽出実験を行った結果,本手法は通常想定されるほとんどの文書に適用可能であることがわかった. 2.筆跡の全体的形状の個人内変動および個人間変動を定量的に把握するための予備実験として,既に収集済みの10名分の真偽署名データから40字種5795筆跡を用いて,筆跡の外形特徴および変動エントロピーを計算した.その結果,個人内筆跡と個人間筆跡についてこれらの評価量には有意な差異が認められた.さらに同じ筆跡サンプルを用いて,パターンマッチング法による筆者照合を行ったところ,個人内変動の大きさと照合率の間には強い相関関係が認められた.以上の結果より,筆跡鑑定結果の信頼性は対象筆者の個人内変動により大きく左右されることが示唆された. 3.筆跡の局所的特徴としての字画構造特徴を対話処理により測定する方法を開発した.これにより今後,前項の全的形状特徴と字画構造特徴を統合した筆跡変動解析を行う準備が整った. 今後以上の成果を基にして,本研究計画の最終目的である高機能筆跡鑑定支援システムの実現に向けて研究を行う予定である.
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