本研究は、人間がどのようなきっかけからどのような目的(ゴール)のためにどのような状況の中で情報探索に取組み、きっかけや目的や状況がユーザの情報探索プロセスと情報源評価にどのような影響を及ぼしているかを捉え、ユーザ状況を反映した情報探索プロセスの概念モデルを構築することを目的とする。 平成15年度は、国内外の学術雑誌、学会発表、ならびに本研究に関連する社会的認知理論や情報行動研究の動向に関する情報を収集し、アメリカ情報学会が出版する研究者向けガイドブックのために、社会認知理論(Social Cognitive Theory)に関するレビュー論文を執筆した。また、わが国の情報学研究における情報行動研究の動向を把握するために、研究誌2誌の内容分析調査を行ない、図書館情報学会年次大会で報告した。さらに、次年度以降に実施予定のインタビュー調査のためのインタビューガイドを作成し、予備調査として、高等教育機関で遠隔教育を担当する教員2名(国内1名;海外1名)を対象に、授業や教材の準備のための情報探索プロセスについて、聞き取り調査を行った。 人間の日常の情報行動に関する研究は、欧米では過去10年ほどでかなり盛んになってきている。研究動向は、認知科学の観点から構成主義に基づく研究の流れと、社会状況を重視した状況主義に基づく研究の流れが交差し、総合的なパラダイムに立脚したモデルの構築も行われている。米国の情報学会(ASIS-T)では、利用研究会を組織し、年1回の会合を開催している。また、ヨーロッパでは「文脈における情報探索(Information Seeking In Context)」という国際会議が隔年で開催され、その中で新たな研究成果の交流が実施されている。わが国における情報行動研究は、これまでは「図書館や情報サービスの利用者がサービスをどのように利用するか」という管理的視点からのものが主流で、利用者側の視点に立脚した研究はようやく端緒についたところである。この流れの研究を強化するために、平成15年度下期より、研究者同士の情報交換の場として「情報利用研究会」を組織し、隔月の会合を開催を開始した。
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