研究概要 |
脳における言語処理などの高次機能について定量的に調べる際には,被験者に視聴覚的な言語課題を呈示し,スイッチ押しまでの反応時間の平均や分散を課題の困難さの指標として用いることが多い。本研究では,今後行う言語課題の評価に新しい計算論的背景を与えるために,まず心理実験における反応時間分布の生成モデルを構成し,単純化された輝度弁別課題の結果との比較検討を行った。 被験者に左右二つの光刺激の内,「より明るい」と判断した方に対応するボタンをできるだけ早く押してもらい,刺激からボタン押しまでの反応時間を測定する心理物理実験を行った。呈示する視覚刺激は,左右の輝度に2種類の差を設定した。また,最大呈示時間として150msと1000msの2種類を用意した。全体を通して,4つの条件がランダムに選ばれる。反応時間分布のヒストグラムは、刺激の組み合わせの種類に依存したが,これを説明できる勝者確定のためのパルス神経回路網モデルについて検討を行った。'ニューロンモデルはLeaky integrate-and-fire (LIF)型ニューロンとし,刺激によるシナプスのコンダクタンス変化にはα関数を用いた。モデルの入力は,輝度を表象したスパイク列とし,発火のスパイク間隔は一様または非一様Poisson過程に従うものとした。これには,視覚神経系で存在が知られているX型細胞とY型細胞を用意した。勝者確定のための抑制結合は,順方向型および帰還型の2種類について調べた。心理物理実験の結果を再現できるモデルパラメータを探索したところ,反応時間分布・誤答率・回答率の全部を再現できるモデルは,用意したモデル構造の範囲内では順方向型神経回路モデルだけであった。また,Y型細胞からの入力は,呈示時間が短い場合の実験結果再現に寄与していることが分かった。
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