研究概要 |
音声獲得に関わる神経機構と処理原理の計算論的研究として,言語音声課題を使った心理実験などでよく用いられる刺激弁別課題の神経機構モデリング,ヒトの時系列短期記憶の性質を調べるためのモールス信号様の呈示音を用いた再生および再認の実験を行い,音声処理の神経機構モデリングのための知見を得た。 刺激弁別課題を用いた心理物理実験とそのモデリングに関しては,前年度に引き続いて,被験者に左右二つの光刺激の内,「より明るい」と判断した方に対応するボタンをできるだけ早く押してもらい,刺激からボタン押しまでの反応時間を測定する心理物理実験を,神経生理学的にデータが得られている実験により対応させ易い実験条件で行った。また,その神経機構モデリングにおいては,前年度のモデルに,視覚一次野で見られるOn, Off, Sustainedなどの全ての応答様式を持つ入力経路を追加し,その妥当性を高めた。その結果,短い呈示時間の刺激において応答時間とその分散が小さくなり,誤判断率が逆に大きくなるという現象を実験的に見出すとともに,それを表現できる生理学的に妥当なモデルを構成することが出来た。 モールス信号様の呈示音を用いた再生および再認の短期記憶実験では,継続時間が1:3の比を持っ呈示音のランダムな系列を用いた。この呈示音は,稚拙な時系列短期記憶モデルにおいて同じ構成要素が繰返し出現する時系列の処理ができないことや,時系列の例として単純明解でありながら,言語的なチャンキングが困難であるために高次処理の影響を排除できるという利点を考慮して選んだものである。今後さらに詳細な実験が必要であるが,通常の短期記憶課題で見られる系列位置効果とは異なる記憶特性や,呈示時系列全体の長さ(速さ)が短期記憶能力に影響を与えることなどを明らかにしつつあり,次年度での実験とモデリングの手がかりを得ることができた。
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