研究概要 |
本研究は,ある行為を空間的に位置づける際に,基準となる空間がどのようにして決定されるか,行為の種類によって基準となる空間がどのように異なるか,また,言語間にどのような差異が見られるかを,その行為を記述する言語表現を分析することによって研究するものである. 本年度は,昨年度に引き続き,主としてフランス語と日本語を対象に,「場所」と「道具」の中間的性質を示す要素に関する分析を行った.道具と場所は共に行為と密接に関係する要素であるが,両者の間には直感的に明瞭な違いが存在するように思われる.しかしその違いが微妙になる場合も存在する.そのような道具と場所の中間的性質を示す要素に現れる日本語,フランス語の類似点と相違点を分析した.例えば「足ふきマットで足を拭く」「ゆで卵をテーブルの角で軽く叩いて割る」の「足ふきマットで」や「テーブルの角で」などは,どちらの言語においても道具と場所の中間的性質を示す例であり,中間領域のいわば典型例であると考えられること,また「新聞で読む」の「新聞で」は日本語ではむしろ道具として捉えられるが,フランス語では場所と考えられること,などを指摘した.このことは両言語における場所のとらえ方に違いがあることを示唆するものである.詳しい分析結果は山田(印刷中)で発表した.引き続き,中国語とドイヅ語の分析に取りかかるが,分析の際にはビデオ映像を積極的に利用する予定である. 更に,他動詞構文に見られる位格の項指向性(位格が主語の指示対象物の位置を示す場合と直接目的語の指示対象物の位置を示す場合の両方があり,いずれになるかは主として動詞によって決定される)と平行する性質を示すと考えられるフランス語の(主語あるいは直接目的語の)属詞構文の分析も行った.Yamada(2005)はそのような観点からの研究の一環である.
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