研究概要 |
本研究は,ある行為を空間的に位置づける際に,基準となる空間がどのようにして決定されるか,行為の種類によって基準となる空間がどのように異なるか,また,言語間にどのような差異が見られるかを,その行為を記述する言語表現を分析することによって研究するものである. 本年度は,昨年度に引き続き,「場所」と「道具」の中間的性質を示す要素に関する分析を進め,新たに中国語に関する分析も行った.道具と場所はいずれも行為と密接に関係する要素であるが,両者の間には明瞭な違いが存在し,その違いは言語的には前置詞・助詞の違いとして,また対応する疑問詞(どこで/何で)の違いに反映されると考えられる.しかしその違いが微妙になる場合も存在する.そのような道具と場所の中間的性質を示す要素は,日本語,フランス語,中国語で極めて類似していることが明らかになった.(例えば「足ふきマットで足を拭く」「ゆで卵をテーブルの角で軽く叩いて割る」の「足ふきマットで」や「テーブルの角で」など).逆に言語間で差異が見られる例として,「新聞で読む」の「新聞で」は日本語ではむしろ道具として捉えられるように思われるが,フランス語や中国語では場所と考えられること,「負傷者を担架で運ぶ」の「担架で」は日本語や中国語では道具と考えられるのに対し,フランス語では場所を表す前置詞が用いられること,などがある. さらに,行為の位置づけではなく,行為の対象となる空間についても分析を開始した.例えば「どこを見る」の「どこ」は「見る」という行為の対象となっていると考えられる.「どこを見る」と「何を見る」の違いは行為の対象となる物の場所性の有無として捉えられそうであるが,他の言語ではどうか,この点に関する分析は現在進行中である.
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