研究課題/領域番号 |
15500168
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
大浦 容子 新潟大学, 教育人間科学部, 教授 (40092671)
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研究分担者 |
森下 修次 新潟大学, 教育人間科学部, 助教授 (80323947)
波多野 誼余夫 放送大学, 教養学部, 教授 (60049575)
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キーワード | 音楽演奏 / 熟達化 / 認知心理学 / メンタルモデル |
研究概要 |
「他者のメンタルモデル」の獲得と利用が熟達に伴ってどのように進展するかについて検討するため、初級者が弾ける程度の難易度の曲を用意して、大学生のピアノ初級者と準熟達者に練習が完成したと思えるまで練習をしてもらい、その間20分毎に練習目的とねらいを報告させた。分析の結果、初級者達は正確でスムースな演奏が練習の目的で、演奏表現についての言及はほとんどないだけでなく、それを考えるのは自分の仕事ではないと考えていたことが明らかになった。それに対して準熟達者達は、理解した楽曲構造にふさわしい演奏表現を工夫するために多くの探索と熟考を繰り返し、工夫の効果を確かめるために「演奏が聴き手にどう聴こえるか」という観点でチェックしていた。さらに熟達者についてのデータを得るため、職業的ピアニストとして訓練を受けた2人の演奏者に「演奏会のアンコール曲としての演奏」と「幼稚園児の誕生会での演奏」という2つの場面を想定した演奏を求め、異なった複数の聴き手を想定することによる演奏の違いが検討された。コンピュータに取り込んだデータを音量の指標であるvelocityの値について分析したところ、(1)演奏会場面での演奏は幼稚園場面よりもフレーズと音量の増減の対応が丁寧で、フレーズの始まりと終わりはより小さな音量で、中程はより大きな音量で演奏された、(2)演奏会場面での演奏では、フレーズに対応した音量の増減によってバス旋律や内声部の旋律を伴奏から浮き上がって聴こえるような工夫があり、曲の複層的な構造が表現された、など、2人の演奏者に共通した特徴がみられた。これらの結果は(準)熟達者達が「聴き手を想定して演奏をtuneする」という操作を行っていることを示しており、熟達が進むにつれて「聴き手のメンタルモデル」が獲得されることを示唆している。
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