自然現象の観測によって得られる時系列データの中には、周期性が強く、確率的な構造が時間と共に緩やかに変化しているように見えるものが数多くある。このような観測データに基づいて非定常なスペクトル構造を推定する場合、データ解析の実際面では定常性をもつとみなすことが可能な時間幅を経験的に与え、その時間幅の時系列データを用いて定常理論に基づくスペクトル密度関数を推定し近似する方法がしばしば行われる。この方法は取扱いが容易であるものの、確率構造の変化の速度に関してどのような近似誤差が発生するか、という点については理論的に不明な点が多い。本研究課題は、この問題に対する理論的側面を統計学的観点より明らかにすると共に、自然現象の観測データに対する適用を通してその正当性を検証することを目的としている。今年度の研究では、比較的緩やかな速度をもつ非定常な確率過程とその非定常スペクトル密度関数を数学的に定義した上で、この過程より発生されたデータを用いて定常なスペクトル密度関数を求めて非定常スペクトル密度関数を近似する状況を考え、確率構造の変化の速度が近似誤差に与える影響に関して漸近論的考察に基づく結果を得た。具体的には、ある条件をもつ時変型の非定常自己回帰過程より発生されたデータに対し、その変動が定常性をもつとみなして定常自己回帰モデルをはてはめた場合に、パラメータ推定における真値とのバイアスや誤差分散、及び定常自己回帰モデルを基にして非定常スペクトル密度関数を近似した際の誤差について、パラメータの時間変化とどのような関係があるかという点について具体的な評価がある程度可能となった。
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