大脳皮質聴覚野のスライス標本に、電位感受性色素を用いたオプティカルイメージング法を適用することにより、神経活動の時空間パターンを記録し皮質内の信号伝達様式変化を調べた。麻酔下のラットから脳を取り出し、大脳皮質聴覚野を含むスライス標本を厚さ400μmで前額断に切り出した。これらを蛍光性電位感受性色素であるDi-4-ANEPPSを用いて染色した後、記録を行った。画像取得装置として、90×60のチャネル数を持つCCD型の高速カメラを使用し、1フレームあたり1msで蛍光画像を取り込んだ。 下顆粒層を刺激すると、興奮活動は下顆粒層に拡がると共に上顆粒層に伝播し、さらに上顆粒層に沿って伝播するという応答が見られる。20Hz以上で多発繰り返し刺激を与えると、時間的空間的に興奮活動が次第に増大した。下顆粒層に40Hz以上の多発繰り返し刺激を与えた時、5回目の刺激に対する応答強度と最初の刺激に対する応答強度との比は、上顆粒層と下顆粒層で異なることが観測された。上顆粒層で観測される応答比の方が、第4層および下顆粒層で観測される応答比より有意に小さかった。刺激部位を上顆粒層にした時にも第4層にした時にも、同様に上顆粒層における応答比の方が、下顆粒層における応答比より有意に小さかった。その結果、最初の刺激後には、上顆粒層のみが強い応答を示したのに対し、5回目の刺激後においては、ほぼ大脳皮質全層が強い応答を示した。これらの結果は、繰り返し刺激に対する応答様式は層によって異なり、特に、上顆粒層と下顆粒層との間で差異があり、この応答様式の違いは繰り返し刺激の頻度に依存していることを示している。したがって、大脳皮質各層は、可塑的変化様式においてもそれぞれ異なることが示唆された。
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