本研究では、ミツバチの採餌行動で見られる記憶に関して、その獲得の過程および行動への影響について解析を進めている。本年度は、昨年度に引き続き微小トルク計を用いた視運動反応計測装置により、ミツバチにおける視覚刺激に対する視運動反応特性の詳細な計測と条件付け実験プロトコルの関連について実験を行った。今年度の成果としては、以下の点が上げられる。 ◆実験プロトコルの詳細な検討を行い、目標画像としてパターン刺激(同心円状、放射状パターン)を用いた場合、条件付け前の状態においてパターン毎に趣向性の違いが見られることが示された。すなわち、多くの場合同心円状パターンに対して趣向性が高い傾向が見られたことから、ミツバチが好むパターンに関する詳細な解析と視覚情報処理機構の解明にも本装置、手法が適用できることが明らかになった。 ◆条件刺激と連合させて報酬刺激(サッカロース溶液)を与えるのではなく、忌避刺激(熱照射)を与えることによって、目標刺激を回避する行動の発現が見られた。報酬刺激と忌避刺激を組み合わせることで、条件付け前の応答に応じて、条件付けによる行動変化を生じさせることができることから、より多彩な実験が可能となった。 ◆実験データの蓄積とともにデータの自動処理、管理と目的とするデータの検索が必要となり、生物学実験データを意識したデータベースシステムの開発を行った。開発したシステムはオープンソースソフトウェアとして公開するとともに、同定神経細胞データベースの構築などにも適用され、その有効性が示された。 当初の計画では、行動実験に加えて生理実験を併用して、視覚刺激受容と行動制御に関する神経機構に踏み込んだ実験を進める計画であったが、行動実験においても明らかにすべき事項が多く、生理機構まで踏み込むことができなかった。しかしながら、飛行制御に関わる視覚刺激の効果を詳細に計測できる提案法の応用は幅広く、データベースシステムを含めた実験系の確立は、今後様々な昆虫、小動物を対象とした実験に応用できるものである。
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