モデリング・シミュレーションシステムに関しては、細胞形態の変化を扱うことのできるソフトウエアA-Cell-MMの改良を行った。前年度は、生化学反応→細胞変形をシミュレーションすることが可能であることを示すことに重点を置いたため、G-actin、F-actinなどの反応スキームなどを固定的なものとしてA-Cell-MMを構築した。今年度はA-Cell-MMを拡張し、actinに関係する多くのタンパクが関わる任意の生化学反応スキームをモデル化できるようにした。しかしF-actinのシミュレーションにおいてはF-actinを構成するモノマー一個を識別する必要がある。すなわち、微分方程式による決定論的シミュレーションとマルコフプロセスによる確率論的シミュレーションを同居させなければならないことが明確になり、この点に関しては次年度以降での開発とした。 シナプス伝達効率の変化を生じさせる刺激によって引き起こされる形態変化が神経細胞における信号伝達に与える影響に関しては、細胞や樹状突起・スパインといった形態の差による物質局在の変化、および生化学反応や拡散パラメータの依存性についてシミュレーションを行った。その結果、直径20μmの球形細胞においても、物理的拡散障壁がないにも関わらず活性化タンパクが細胞表面の刺激受容部位のごく近傍に局在することがわかった。これは以前報告された、カルシウムマイクロドメインとは異なる現象であり、はるかに局在性が高い。また、一連のシミュレーションの途上で蛍光色素を用いた観測は実際よりカルシウムイオンの局在性を過大に評価している可能性があることを見出した。これは、通常言われていることとは逆の結果である。原因解析とパラメータ依存性に関する検討は次年度の課題である。
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