形態変化のシミュレーションの基礎を構築するための理論構築とアルゴリズム開発を行った。確率論的シミュレーションのための理論として、これまで知られていた微視的(分子程度の大きさの)領域に対する拡散衝突反応理論であるSmoluchowski-Debyeの式をとりあげた。しかし、これを基礎にした確率論的シミュレーションのアルゴリズムを構築することが困難であることが判明した。最大の理由はSmoluchowski-Debyeの式では分子が連続的な運動をすることが仮定されている一方、シミュレーションにおいては一定時間同じ座標にとどまった後に時間間隔0で、次の座標にジャンプするランダムウォークの動きをすることが原因である。さらに、Smoluchowski-Debyeの式のように分子が連続的に運動する場合衝突は一瞬であり、この短い時間で反応が進むとは考えにくく、このような考え方を前提とすることに対する原理的問題も明らかになった。一方、これまで行われていた確率論的シミュレーション研究の調査から、部分的には確率論的であるものの、決定論的な部分も含まれたシミュレーションを行っていたことも明らかになった。このようなことから、新たに確率論的反応の理論を構築しなければならないと判断されるに至った。そこで確率論的シミュレーションのための理論的基礎の部分を構築した。本理論によって衝突反応確率を計算できるが、分子数無限大の極限において、巨視的パラメータである反応の速度定数を用いたシミュレーションに一致することを保証する理論構築を行うことができた。 一方スパインのような微小空間内においても、拡散障壁がないにもかかわらず物質局在が生ずる現象を見出した。この現象はかなり安定であり、2桁の濃度変化、拡散定数の変化、速度定数の変化に対してかなり安定に生ずることが明らかになった。即ちスパインをはじめ、細胞内で進行する生化学反応そのものに、局在現象を示す原因が一般的に内在されていると考えられることがわかった。
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